#8 集まれ!2024年の新しい『学び』と『シゴト』に向けて
明けましておめでとうございます。早速ですが、今月は、本ニュースレターで取り上げてきたことがフィーチャーされるイベントを続々と予定しています。
1月24日デジタルリテラシーに関するセッションで登壇します@Privacy by Design Conference 2024
2024年1月24日(水)は、羽田イノベーションシティ PiOPARK(ピオパーク)にて開催されるPrivacy by Design Conference 2024に参加します。同カンファレンスは、プライバシーに関わる、文化、法律、テクノロジー、ビジネス、オペレーションなどのさまざまな立場の方が、多様な視点で対話を行うための国際カンファレンスです。私がモデレーターを担当するセッションは、15時台の「これからの社会に必要なデジタルリテラシー」です。
前回、特集した「デジタルリテラシー、どう測る?」の問題意識をベースに、なぜデジタルリテラシーが必要なのか今何が課題なのか、どうなっていくといいか、について議論していきたいと思います。なによりも、パネリスト・参加者と一緒に、現状について意識を共有し、スタートラインを作ることができるようモデレータを務めます。登壇者は、情報銀行認定事業を行っている日本IT団体連盟 情報銀行推進委員会の大喜康生さん、コンピュータ利用の運転免許のようなデジタルスキル醸成に世界中で取り組んでいるICDLの鈴木智久さんのお二方です。
大貴さんが携わる情報銀行とは、個人がお金を安心して銀行に預け、運用益が個人に還元されるように、私たちが日頃使うアプリなど様々なITサービスで発生するパーソナルデータを、利用者個人が同意した一定の範囲内で、信頼できる事業者等に個人情報の第三者提供を委任し、安心安全なパーソナルデータの管理を通じて、その運用益を個人に還元するための仕組みのことです。このニュースレターでは、パーソナルデータの在り方については教育データの観点から補足的に扱ってきていましたが、教育領域に限ったものではなく、私たちが置かれているデジタルな環境そのものの整備が進んでいくことが必要です。私は、データ利活用によって生まれるベネフィットは、アグリゲーターだけではなく、個人にも享受されなければ不均衡だ、という問題意識を持ってきました。ITシステムの介在によって発生する大量のデータの所有や関与に関する権利の定義は、複雑で、制度化よりもデジタル化が先行しており、どうしたらいいのか、世界的にも議論されてきましたが、答えは出ないまま、近年はAIによる潜在的な権利侵害が表面化してきています。
進まないデータ利活用、パーソナルデータ不安をどうする?
日本では、残念ながらデータポータビリティに関する仕組みは実現されておらず、個人のデータ主権について、まだまだ世論が熟していないのが現状です。世界のITサービスの潮流としては、事業者が利用者のパーソナルデータを一手に集積し管理するアグリゲーターモデルが一般的で、それに対抗する形で、パーソナルデータの主権はユーザにあるべきとしたマイデータモデルが生まれていますが、情報銀行はそのいずれとも異なる日本独自のモデルです。マイデータモデルでは、ユーザがサービス利用にあたって、自身の判断で個別に選択しデータ利用について同意するのに対し、情報銀行モデルでは、情報銀行認定事業者という一定の基準を満たした事業者に対して、利用者が安心してパーソナルデータを預け、情報銀行認定事業者が第三者に同意の範囲内でデータを提供する仕組みだと私は理解しています。情報銀行認定制度という、公共的に担保された信頼の仕組みが、事業者のパーソナルデータに関するサービスの評価をきっちりやってくれており、第三者提供に関して個人が個別に判断をしなければいけないコストが軽減される利便性があるのですが、なかなか一般に浸透していません。マイデータモデルの理想に共感する部分が多いのですが、ローレンス・レッシグは、データの利用について個人が判断し同意するのは無理がある、と2019年のインタビューで、次のようにぶった切っていることを考えると、マイデータモデルとは異なる第三の道として情報銀行は、世界的にももっと注目されていいのではないかと思います。
いかにしてユーザーの同意をより良いものにしていくかを目指すというのは間違った戦略です。同意を根拠としてプライバシーを取り締まるべきではありません。なぜならユーザーはデータがどう使われるか実際には理解できず、またその判断のために時間を割く余裕もないからです。ユーザー側でさまざまな意思表示をできるように気の利いた技法を目指す取り組みは、どれも無駄な努力に終わるでしょう。
フェイクニュースに打ち勝つリテラシー
デジタルリテラシーが必要になる背景として、デジタルテクノロジーの浸透により人々は日常的に膨大な情報に簡単にアクセスできるようになりその情報の主体や質も多様になりました。個人は、情報を収集し、分析し、評価する力を持たないと、悪意のある情報に騙されたり煽動されてしまうリスクがあります。情報テクノロジーを設計する側は、専門知識や巨額の予算をとおじて、自分たちの意のままに、心理学や行動経済学などの理論を高度に応用することが可能であるのに対し、情報の受け手側がそれらの背景について批判的に受け取るすべを持たず、鵜呑みにしてしまえば、脆弱な立場に置かれかねません。さらには、悪意のある主体が既存の情報空間の設計上の特性に目を付け、自身の目的に優位に働くよう企て、偽情報(disinformation)を流布するケースも増えています。まっとうで、安心・安全なエコシステムとは言えない現状の情報空間を、ユーザ個人がうまく歩んでいくにはリテラシーが必要なのですが、情報空間の技術がすぐに進展するので、教育が追いついていないことが課題となっています。そのうえ、これらの偽情報が選挙での主権者の判断を揺るがす事例が世界的に後を絶たず、健全な民主主義上の大きな問題となってきました。わたしも、UNESCOのフェイクニュース対策のハンドブックがでた翌年(2019年)から授業資料の一つとしてずっと参照してきましたが、今般その日本語版がリリースされたそうです。
せっかくの高校「情報Ⅰ」を社会人にも
1/25は、GLOCOM六本木会議「すべての人に『情報Ⅰ』の内容を!DXのスタートラインとしての国民的素養」が開催されます。昨年開催した「六本木会議オンライン#59情報科教育が生むジェネレーションギャップ ~高校だけじゃもったいない、社会人にも情報Ⅰが効く理由」の内容を受けて、その後登壇者らと議論した成果を取りまとめる形で作成した提言書のドラフト版を発表いたします。こちらにも携わらせていただいております。
2023年師走の振りかえり
2023年12月は、本ニュースレターのテーマに関係の深い情報が続々と公開されjました。12月上旬には、オープン教育や認定技術と実践に関わる国際会議「ePIC 2023: International Conference on Open Education, Open Recognition Technologies and Practices」がウィーンで開催され、このニュースレターで注目してきた学びとシゴトをつなぐ学習成果証明のデジタル化に関して、その設計の在り方や導入事例について最新の知見が共有されていました。同会議の資料は、すべてオンラインで見ることができるようになっています。
またデータ戦略に係る海外動向調査及びデータ戦略推進ワーキンググループ支援業務 最終報告書がデジタル庁から公開されており、受託したBCGさんの資料が出ています。その中で米国LER(Learning and Employment Records)について、194ページで振れられています。公開情報をもとに作成されたそうですね!!LERに関する私の資料も公開していますがね!
ePICのセッションを見ていても思うのですが、2023年の後半はequity(公平性の実現)のために、いかにデジタルを活用していくか、ということが大事なテーマだということを、改めて感じさせられました。
本ニュースレターは、新しい「学び」と「シゴト」を中心に、やや教育DXの狭義の部分を取り上げてきましたが、今年は、自分の領域を過度に箱に入れてしまうことなく、データ主権や、ダイバーシティといった、デジタルトランスフォーメーションの実現にあたって根源的なテーマについても含んでいきたいと思います。今年も、どうぞよろしくお願いいたします。:-)
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