#6 デジタルリテラシー、現状をいかに測る?(前編)

デジタルリテラシーが不可欠な時代だと日本でも世界でも、声高に言われています。では、いまできてる人はどのくらい存在しているのでしょうか?そしてどの部分が足りていないのでしょうか。それがわかると前に進めるような気がするのですが・・・
Keiko 2023.08.16
誰でも

冷やしたスイカがおいしい季節ですね。すっかり前回の更新から時間が空いてしまいました。今回は、デジタルスキル、はたまたデジタルリテラシー、ないしはデジタルコンピテンスと呼ばれているものについてその現状を知るすべについて取り上げたいと思います。(ここでは一旦、デジタルリテラシーという語を使います)。

デジタルリテラシーって?

デジタルリテラシーと言ったときに、それが何を意味するのでしょうか。日本では、だれそれのための、あれとこれとそれの知識や能力のことでしょ!知ってるよ!とすぐ答えられる人はいないとおもいます。なぜなら国民全員のための標準となるデジタルリテラシーの枠組みが存在しません。一方で、今の日本には、DXリテラシー標準(経産省、2022)とか、高校情報の学習指導要領(文科省、2021)、それからアセスメントとしては、総務省の「青少年がインターネットを安全に安心して活用するためのリテラシー指標」(ILAS:Internet Literacy Assessment indicator for Students)があり、それぞれ対象者や目的が異なっています。私の経験ですが、デジタルリテラシーの話をするとだいたい、メディアリテラシーとは違うのか?とか、いや、そうではなくデジタルコンピテンスだ、とか、情報モラルじゃだめなのか、情報リテラシーなら大学でやったぞ、とか、最低限のセキュリティの話とちゃいます?とか、いやいや安心してテクノロジーを使うだけじゃなくシチズンシップも含んでこそだ、とかそれだけでひと悶着あります。

ここで世界的な定義をみてみましょう。例えばユネスコ(Law et al. 2018)では、次のように定義しています。 これをみると、デジタルリテラシーは、情報リテラシーやICTリテラシー、メディアリテラシーなどを包含した概念だということがわかります。(概念の経緯はこちらが詳しい)  

Digital literacy is the ability to access, manage, understand, integrate, commnicate, evaluate and create information safely and appropriately through digital technologies for employment, decent jobs and entrepreneurship. It includes competences that are variously referred to as computer literacy, ICT literacy, information literacy and media literacy. 
(Law et al. 2018)
デジタル・リテラシーとは、雇用や まっとうな仕事、起業のために、デジタル技術を通じて、安全に、適切に情報にアクセスし、管理し、理解し、統合し、コミュニケーションし、評価し、創造する能力のことである。これには、コンピュータ・リテラシー、ICTリテラシー、情報リテラシー、メディア・リテラシーと呼ばれる様々な能力が含まれる。
DeepLによる翻訳

デジタルリテラシーの共通枠組み

ではこの概念に相当するフレームワークはどうなっているでしょうか。概念を実際に使うには、どのような能力(これとそれとあれがどの程度できるか)を具体的に示したまとまりが必要です。ユネスコがまとめたデータベースには22以上のフレームワークが掲載されており、例えば欧州のDigComp(のちに紹介)やマッキンゼーのDefining the skills citizens will need in the future world of workなど、様々な国や地域、主体により開発された枠組みがリストされています。つまり、ところかわれば、参照されているデジタルリテラシーのフレームワークも様々なのです。

デジタルリテラシーの現状把握~まずは共通の参照フレームワークから

デジタルリテラシーの重要性と、対象者、そしてどのくらいの人口が達成できているかという問いについて、いくつかの事例を紹介したいと思います。今回は、世界銀行の2020年4月の資料Digital Skills:Frameworks and Programs」から。本資料は、アフリカ地域の人々がデジタル経済に参画するためには、デジタルリテラシーを身に付けた市民と、働き手の層を厚くしなければならないという危機感のもと、では如何にしてそれらの人々のデジタルスキルを査定するのか、手法を練ったものです。

最も包括的なデジタルリテラシーの参照枠組みとして、下に示した5つのコンピテンス領域を持つ欧州のDigCompを参考に、そのうえにさらに途上国の文脈で必要になるより基本的な端末の操作、加えて仕事・キャリアでの応用に必要なスキルを盛り込み7つのコンピテンス領域からなる"Digital Literacy Global Framework(以下DLGF)"(ユネスコ,2018)を共通項とすることが最も使いやすいだろうしています。

また、デジタルスキルの醸成に必要な手立てとして①基本、②中級(ミドルレベル)、③専門職(プロフェッショナル)、④高度IT専門職の4を位置づけ、それぞれ、フォーマルな教育制度のなかでできることと、教育制度の外でできることを整理しています。

下の図はそれらの整理にあたって、職業とデジタルスキルとの関係でフレームワークを対応付けしたもので、①基本②中級には、DigCompないしはDLGFを、③専門職(IT系の職種かどうか問わない)、④高度IT専門職には、e-CFを参照することを示しています。

<b>スライド①:</b> WorldBank.(2020) <a href="https://documents1.worldbank.org/curated/en/562351611824219616/pdf/Digital-Skills-Frameworks-and-Programs.pdf">Digital Skills:Frameworks and Programs</a>の14ページ、Figure4より筆者さ

スライド①: WorldBank.(2020) Digital Skills:Frameworks and Programsの14ページ、Figure4より筆者さ

<b>スライド②:</b>同上

スライド②:同上

共通のフレームワークがあると何がいいのか

世銀による同調査によると、OECD加盟国やアジア、ラテンアメリカの諸国がデジタルスキルフレームワークを開発し、そのことによって自国のデジタルスキルの達成にあたって指標として政策を導いたり、教育・研修等の講座、教材開発に役立てているものの、アフリカでは一部の国を除いてデジタルスキルの包括的なフレームワークが無いとのこと。そのため、欧州DigCompやユネスコのDLGFを参照先とするのが近道だろうとしています。他方、ICT専門職業人材に対しては、市民向けとは別の、より業務の詳細の記述が盛り込まれたフレームワーク必要であり、該当するのは欧州e-Competence Framework (e-CF)のほか、米国、オーストラリアのSFIA、日本のi-Competency Dictionaryが言及されています。e-CFは、ICT専門職に限らず、マネージャー、HR/人事部、さらには教育研修機関を対象に開発されているため、大学や研修機関などが提供する講座(プログラム)の質評価に応用できる点が有効だとされています。

アフリカだけに当てはまる話では、なさそう

アフリカ地域の人々がデジタル経済に参画するためには、デジタルリテラシーを身に付けた市民と、働き手の層を厚くしなければならないという危機感のもと 、人材の層、スキルのフレームワークと教育講座のあり方について検討した世銀の資料では、ほかにも次のようなことを指摘しています。なんだか、アフリカに限ったことでもないような気がするのは私だけでしょうか。

  • デジタルスキルの需要がどのくらいあるのか評価するのは難しいが、今後あらゆる分野でデジタルスキルが必要になることを考えれば、求人情報のデータとAIを組み合わせて分析し、スキル特需を識別するべき。従来の専門家が協議して策定するスキル需要では、時間がかかり、その間にスキル需要が変化してしまう。

  • .非ICT専門職、国民すべてに求められるベーシックなデジタルスキルについては、公教育とに加え、インフォーマル、ノンフォーマルな学習を通して醸成することができる. 中級、上級そして高度専門ICT職業人の育成にあたっては、高等教育機関が講座を開発、改定する必要がある。アフリカの大学で提供されている講座は古く理論ベースの座学が多く実践的学びが不十分である。

  • 高度専門ICT職業人の育成には応用数学、コンピュータエンジニア専攻の大学院にて、教員のプロフェッショナルディベロップメントと並行して行うべき。同分野は教員不足なので地域で連携して取り組むことになるだろう。

  •  中小、零細企業では経営者が高学歴ではなく、そのためにテクノロジーの進化について無頓着で、新たなスキルニーズについても、しばしば気づいていない。. ベーシックなデジタルスキルをあまねく普及させるには、中学か高校で単独科目として導入するのが手っ取り早い。テクニカルサポートにあたる支援員の配備も重要である。

  • 中級以上のデジタルスキルについては、様々な分野での応用が求められるため、単独科目ではなく、既存科目に統合して教えるのが良い。この場合、教員研修の拡充が特に重要。

  • 高度な専門職業人材の育成は、大学院で行うのが理想だが、実際あまりアフリカに無い。すると、学部の質にも影響するうえ、新たな技術の開発も出遅れてしまう。

デジタル経済の波に出遅れないようにするために、デジタルスキルをどう醸成していくべきなのか、アフリカ向けに書いた世銀の資料を紹介しましたが、あまりにも長くなってしまったので二本に分けます😂。次回は、国連SDGsの視点から。共通のフレームワークがあっても、次はアセスメントツールが無いと、現状把握ができないので、アセスメントに向かう考え方を紹介したいと思います。

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