#4 特集:米ノースダコタ州:「学び」と「シゴト」をつなぐデジタルウォレット

今回は、アメリカ中西部のノース・ダコタ州が実施している「学び」と「シゴト」をつなごうというプロジェクトNorth Dakota Digital Credentialsについて紹介します。
Keiko 2023.03.13
誰でも

ノースダコタ州で活用されるウォレット

アメリカ中西部の北にあり、農地が多く、思いつくのはエネルギー産業かなといった具合の州ノースダコタで、ここ数年で学修成果証明書のデジタル化が進んでいるので紹介したいと思います。

地域の産業で必要とされるコアスキルと業界/ジョブ固有のスキルを明確に表現し、労働力開発と教育を結びつけようという意図から、学修成果証明のデジタル化に取り組んできました。そのステップは、まず(1)紙の証明書から(2)人間が読めるデジタル証明書の発行へデジタル化し、(3)マシン可読なデジタル証明書に統合させ、(4)検証可能で分散型のデジタルクレデンシャルに移行、最終的には(5)証明書を活用して採用に結び付ける、というビジョンを描いています。

 Korsmo, T., Linson, K. W., & Marks, J. (2023, January 18). <a href="https://docs.google.com/presentation/d/1j_4t4GmZFCbm8DI29m7yKfaPI2YJg7QQ/edit#slide=id.g1c47e8f09fa_0_0">North Dakota Digital Credentials: Connecting Education and Workforce</a>  --. Wiki.t3networkhub.org; T3 Innovation Network. をもとに筆者が抄訳、作成。CC-BY-4.0

 Korsmo, T., Linson, K. W., & Marks, J. (2023, January 18). North Dakota Digital Credentials: Connecting Education and Workforce --. Wiki.t3networkhub.org; T3 Innovation Network. をもとに筆者が抄訳、作成。CC-BY-4.0

どんなことをしたか?

まず最初に行ったのは、ノースダコタ州の人々が自由に使えるウォレットとデジタル証明書発行サービス「mywallet.nd.gov」の提供でした。ビデオでは高大接続における成績証明書を例にとって簡単な説明がなされています。クレデンシャルアプリを提供する州としては、全米で最初の事例であり、かなり先進的です。(Sovrin ブロックチェーンを使ってるノースダコタ州の成績証明書発行の仕組みを詳しく知りたいという稀有な方はこちらのビデオがよいです。)

もともと、ノースダコタは、2010年代から教育データ利活用を積極的に行ってきた経緯があります。そのなかで、教育データを縦断研究に応用するため、教育のデータリテラシーの向上施策や教育データの標準化が積極的に行われてきました。ウォレット/発行サービスの提供の裏に掲げられた目標は、次のようなものでした。

 デジタル検証可能なクレデンシャルの採用と学習者へのスタック可能なマイクロクレデンシャルの発行に関連するすべての障壁、摩擦、およびコストを取り除くこと

サービスの機能は次のようなものでした。

  •  ノースダコタ州のすべての人が無料で使える

  • 成績を含む様々な成果証明を集め、キュレーションし、シェアできる

  • モバイルウォレットへの移管機能

  • オープンソースのOpen Credential Publisherを使用

  • 採用担当者宛にメールで検証可能な資格証明等を送信できる

  • QRコードによるシェア機能 

  • 成績証明書に課外活動やOJTでの成果を補足可能

ウォレットの提供の次は、学習経路を整備する実証実験

   Korsmo, T., Linson, K. W., & Marks, J. (2023, January 18). <a href="https://docs.google.com/presentation/d/1j_4t4GmZFCbm8DI29m7yKfaPI2YJg7QQ/edit#slide=id.g1c47e8f09fa_0_0">North Dakota Digital Credentials: Connecting Education and Workforce</a> --. Wiki.t3networkhub.org; T3 Innovation Network. CC-BY-4.0  

   Korsmo, T., Linson, K. W., & Marks, J. (2023, January 18). North Dakota Digital Credentials: Connecting Education and Workforce --. Wiki.t3networkhub.org; T3 Innovation Network. CC-BY-4.0  

学位と履修証明プログラム、個々の科目との関係

画像の右上に紫色で囲ってあるのがサイバーセキュリティの学位ですが、そこにたどり着くためには、左側にある要素を満たす必要があります。真ん中には、四つの履修証明証(サーティフィケートプログラム)が示されており、例えば、セキュアプログラミング認定証を取得するには、CIT450:データベースとウェブアプリのセキュリティという科目と、CIT381 ITプロジェクト管理という科目を履修する必要があります。さらに左にさかのぼってみると、CIT450をの前提科目としてCIS204データベース設計とSQL、およびCSCI16 コンピュータサイエンス1(Java)があるのがわかります。さらに後者の前提科目として、CIS18 プログラミング概論(Python)というツリー構造です。高度な学びを習得する道のりを「パスウェイ」と呼び、近年米国の教育関係者のバズワードになっています。

学習経路の情報は単に大学の中に閉じたものではなく、この学位が提供する学びは、仕事で求められている能力や他の教育プログラムが参照しているカリキュラム標準との対比でどのくらいカバーしているか、を示す意図があります。

かなり細かい話に…

科目の学習成果、スキル情報のマシン可読化

ここからかなり細かい話になってきます。先ほどのパスウェイでは、学位に到達するまでの学習経路として、科目や科目のひとまとまりで達成を示す修了証明書などが描かれていました。今度は、さらに粒度が小さい、個別の科目が参照しているカリキュラム標準とそれらが示す学習成果の情報をマシン可読化にしていきます。

    Korsmo, T., Linson, K. W., & Marks, J. (2023, January 18). <a href="https://docs.google.com/presentation/d/1j_4t4GmZFCbm8DI29m7yKfaPI2YJg7QQ/edit#slide=id.g1c47e8f09fa_0_0">North Dakota Digital Credentials: Connecting Education and Workforce</a> --. Wiki.t3networkhub.org; T3 Innovation Network. CC-BY-4.0    

    Korsmo, T., Linson, K. W., & Marks, J. (2023, January 18). North Dakota Digital Credentials: Connecting Education and Workforce --. Wiki.t3networkhub.org; T3 Innovation Network. CC-BY-4.0    

この作業にあたっては、IMS CASEやRich Skill Descriptorといったスタンダードが使われたことでしょう。なお、インストラクションデザインに基づいて設計された授業のシラバスは、スキル情報が明確に記述されやすいです。こうした科目の情報と、例えば米国のサイバーセキュリティカリキュラム標準とを照らし合わせて、どのくらいカバーしているか確認するには、一度スキル(コンピテンス)をマッピングしていきます。科目で身につく能力を明らかにし、それらをデジタル証明書からも参照できるようにしておくと、高校⇒大学⇒社会の接続にあたって、検証可能なデジタル証明書が流通できるようになります。

何に頼ってこんなことができたか?

やろう!という意気込みを持った勢力やそれに伴う資金的援助があったことに加え、関係者が協力して、オープンソースのソリューション導入していったことも重要な背景のひとつだとして強調されていました。

今後は、シェアードサービスにより、すべての関係者がパスウェイやコンピテンシーの一貫性の調整に関与できるコラボレーションの場を作っていくことようです。具体的には、、デジタル資格情報は経済発展の原動力になる可能性を捉え、デジタル資格とキャリアパスとをつなぐノースダコタ州の効率的な人材パイプラインを目指していくとして、リスキリング機会の提供や、スキルと習熟度の向上のための教育の再編成などに貢献していきたいとしています。

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