#7 デジタルリテラシー、現状をいかに測る?(後編)

デジタルリテラシーが不可欠と叫ばれる時代。ではどの程度できていて、次はどの部分を学べばステップアップできるのでしょうか?現在地を把握するための評価方法はどうなっているでしょうか。
Keiko 2023.08.20
誰でも

前編では、デジタルリテラシーの定義と枠組みについて取り上げ、アフリカ大陸でのデジタルリテラシー向上にあたってどのような施策が可能か検討した世銀の資料を紹介しました。後編となる今回は、国連SDGsの視点から、2019年のUNESCOの情報文書である「Recommendations on Assessment Tools for Monitoring Digital Literacy within UNESCO's Digital LIteracy Global Framework」を参考にデジタルリテラシーの評価について考えていきます。

SDGsにおけるデジタルリテラシー

SDGでは、「2030 年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる」という目標が掲げられており、その指標としてICTスキルを有する若者や成人の割合に着目することが示されています。具体的には次の3つの指標です。

  • 4.4.1:  ICTスキルを有する若者や成人の割合(スキルのタイプ別)

  • 4.4.2: デジタルリテラシーのスキルにおいて最低レベルの習熟度を達成した青少年/成人の割合

  • 4.4.3: 年齢層別、経済活動状況別、教育レベル別、プログラム内容別の若者/成人の教育達成率

しかし、このうちの2番目については、何をもってデジタルリテラシースキルの最低レベルの習熟度とするのか、共通の理解が存在していないため、知識ギャップを生んでしまっています。国をまたいで様々な経済状況において使えるデジタルリテラシースキルをはかろうとするならば、やはり欧州DigCompを拡張したDLGF(デジタルリテラシーグローバルフレームワーク)を軸として、それに対応するアセスメントツールの開発を検討しよう調査しまとめたものが同文書です。これによると、コンピテンスフレームワークがあると、古くなったカリキュラムを再設計して更新したり、プロフェッショナルディベロップメント/職業上の研修、政策の指標、専門職業人の認可・認定、採用、などの実務面で役立つとされています。

デジタルリテラシーのアセスメントに相応しい方法とは?

一般的に学習のアセスメントというと、どんなものであっても、妥当性と信頼性を担保することが求められます(要は、テストで測っていることが、実際に測ろうとしている事柄を表しているかどうか、ということ)。同時に学習のアセスメントであるということは、単に点数を付ければよいのではなくそのテストを受けたことが次の学習のためになる、つまり学習プロセスの一環としてテストを設計する必要もあります。国連の統計目的で策定するアセスメントだから、世界的な規模にスケールでき、コスパが良く実施できるという条件をクリアする必要もあるでしょう。

アセスメントの類型

同調査によれば、アセスメントには大きく分けて次のようなタイプがあります。

  • 知識ベースのアセスメント(いわゆる選択問題のテストなど)

  • パフォーマンスベースのアセスメント(運転免許取得時に行うな実地の試験)

  • セルフアセスメント(心理テストでやるようなアンケート)

ほかの分類法として、中心となる領域とアセスメントの手法とで整理し、情報リテラシーに特化した選択問題(例:ICILS)、テクノロジーリテラシーに特化した選択問題(例:ICDL)、そしてデジタル情報リテラシーに特化した実地テスト、の3つに分けてとらえることもできるようです。

結局同資料では、

◆アセスメントの目的

研究目的/資格認定/統計目的/診断目的

◆中心となる領域

技術的な操作に関するもの/情報リテラシーに関するもの/20以上のまとまりをもった現実の課題解決に応用するためのデジタルコンピテンス

という◆二つの観点を含めて整理し、自己評価によるアセスメントと知識または実地のテストとを組み合わせるのが現実解だろうとして、いくつかの方向性を指し示しています。

その前段となる2018年のペーパーではデジタルリテラシーのフレームワークについて国際的な動向を調査したところ、①自国で開発したパターン、②民間研修・資格を援用したパターンのいずれかに別れ、それぞれDLGFをどのくらいカバーしているか調べています。下図をみると、国でデジタルリテラシーの枠組みを定めたところ(赤い本のアイコン)もあれば、民間のICDLを活用しているところ(青)、マイクロソフトの資格を応用しているところ、ICS(黄色)をつかっているところもあります。このうちICDLは、もともと欧州コンピュータドライバーズライセンス(コンピュータを使うための運転免許のようなベーシックなスキルを示すもの)として始まったのですが、アフリカ、アジア、中南米などでかなり導入されているようです。

ユネスコの文書によれば、アセスメントツールを開発するにあたって、アセスメントの目的や種別で類型化していますが、実際にツールとして導入するには国・地域といった社会的文脈ごとに求められるスキルが異なるので(例えば、デスクトップではなく、携帯電話の操作を前提とする環境の地域もある)フレームワーク内のコンセプトとしてコンピテンスを定義するのではなく、ユースケースとして実務レベルのものを集め、基礎、中級、上級の学習パスウェイを示し、それに応じたデジタルリテラシーの定義をするのが良いという見解が示されています。

リテラシーのアセスメントは、クレデンシャル(資格認定)の話でもある

先に記載したとおり、アセスメントの目的は、おおよそ、研究目的/資格認定/統計目的/診断目的の4つに分類されていますが、やはり注目したいのは資格認定、つまりクレデンシャルについてです。

資格認定(クレデンシャル)を目的としたアセスメントには、次のような利点があると書かれています。抜粋抄訳、筆者太字。

資格取得を目的とした デジタルリテラシー 評価(ICDL/ECDL など)は、主に採用企業や教育機関のニーズに対応している。近年、従業員や学生のデジタルスキルの比較可能性がますます重視されてきている。資格認定に焦点を当てたアセスメントは、高度に管理された環境で頻繁かつスケーラブルに使用できるように設計されており、標準化と普遍的なスキルの重視、 実用的で技術的なスキル(ワープロ、表計算など)に重点を置くことで、項目や尺度の再利用が可能になっている。コストは受験者が負担だが、資格認定タイプのデジタルリテラシーのアセスメントは、通常、信頼性が高い
https://gaml.uis.unesco.org/wp-content/uploads/sites/2/2018/12/4.4.2_02-Assessment-tools-for-monitoring-digital-literacy.pdf

デジタルリテラシーのアセスメントにあたって、同調査の結論で推奨している事柄の一部を抜粋します。

  • DLGFの中核となるテストは、デンマークのデジタルコンピテンシーと同様、自己申告に基づくべきである。テスト時間は15~20分以内とし、全項目について自動評価とすべき

  • 妥当性と信頼性を向上させるために、自己報告式のテストに知識ベースのテストを追加すべき。この追加テストでDLGFモデル全体をカバーする必要はない。

  • ソフトウェアとテスト項目は、Githubで毎年バージョン管理されるべきである。項目とテストはIMS QTI 2.2フォーマットでエクスポート可能であること。プライバシーとデータ保護に関する国内(およびEU)の高い基準を満たすことに特に注意すること。データは初期段階で匿名化され、回答者の個人情報は保存されない。

  • ソフトウェア・アーキテクチャは、eポートフォリオ(自己評価診断用)やマイクロクレデンシャル(オープンバッジなど)の潜在的な拡張性を可能にするものでなければならない。

以上、デジタルリテラシーの定義から、そのスキルを測る方法について、ユネスコの資料を基に紹介してきました。個人的に、資料を読んでいて面白かったのは、大きく分けて2点です。まず一つ目は、様々な教育・学習理論が反映されている点です。デジタルリテラシーの領域の定義とそれに準じたフレームワーク、アセスメント設計において、使われている言葉がすべてインストラクションデザインの理論に則っており、ブルームのタキソノミーを用いている点です。デジタルリテラシーのレベルの定義においては、ソーシャルラーニングの概念が応用されており、上位レベルでは、他者とのかかわりの記述があり、他者を導くということが上位レベルの表れとして記されています。デジタル技術も身に着けるべきコンピテンスも刻々と進化するので、他者との関わりのなかで学ぶ力が重要だということも感じました。アセスメントについても、学習と切り離すのではなく、アセスメントが学習の一環であると扱うことも、新しい学びの在り方として求められている要素のひとつです。

もう一つ、読んでいて面白かったのは、クレデンシャルとの兼ね合いです。ユネスコのようなマクロの視点では、スキルの可視化にあたって、アセスメントにより統計をとり、政策を導いていくという目的から調査をしていますが、メソレベルでは、企業や教育機関が、個人のデジタルリテラシースキルを見比べて物事を検討したいというニーズが高まっていること、そしてクレデンシャルがその役目を果たしていることと関連している点が面白かったです。前編で、求人情報データとAIの活用によって最新のスキルニーズを把握すべきとの世銀の提言を紹介しましたが、そういったデータによって、よりスキル需要の可視化が進み、他方で個人が保有するスキルもeポートフォリオ、デジタルな学習履歴などによって電磁的記録が進んでいくと、マッチングを効率化し、ギャップを埋めることができるかもしれません。というか、クレデンシャルとリテラシーの兼ね合いについては、自分自身では地続きだと感じていたものの、なかなか人に説明できなかったので、資料を通して関連性をひも解くことができました。(簡潔にまとめることはできなかったけれども・・・)

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