#3. 共通テスト、ChatGPT、学習歴
受験シーズンですね。大学入学共通テストが行われ、その後、科目により平均点に20点以上の差があったことから得点調整が実施されるとの報道に注目が集まりました。

多肢選択問題の起源
共通テストと言えば、選択問題です。選択問題の起源をたどると、フレデリック・J・ケリー氏が、テストの標準化と効率化を目指し1914年に開発したもの。その歴史をたどったキャシー・デイヴィッドソン氏は自著の中で、選択問題が生まれたのはラジオが発明された大昔であり、そこからちっとも変わっていないことを批評しています。これによると、フレデリック・J・ケリー氏は自身の開発した選択問題について「低次思考」を測るものだと言及しています。
今となってはあらゆる分野に応用されている選択問題ですが、興味深いことに、ケリー氏の選択問題の提案は、当初猛反対にあいました。当時の主流な考査方法はエッセーライティングでした。高尚な知識をかたちにしているエッセイ・ライティングに対し、多肢選択式のテストでは、論理よりも暗記重視で文脈のない事実ばかりが評価されてしまうと危惧されたからです。選択問題では、複雑で合理的で論理的な思考を見逃してしまうし、エッセイで表われるような個性がなく、統一されてしまう、と。
キャシー・デイヴィッドソン氏は2011年の時点で既に、デジタル時代にはテストの在り方を改めなければいけないことを強く主張していました。
インターネット時代の私たちは、今もって、工業化時代に合わせて設計され、大量生産をモデルにし、高水準でることよりも、効率性を重視して設計された教育システムを抱えています。
In the Internet age, we are saddled with an educational system that was designed for the industrial age, modeled on mass production and designed for efficiency, not for high standards.
インターネットを使う暮らしの中で基盤となる事柄―情報の信頼性、セキュリティ、プライバシー、知的財産などについて子ども達に教えることは、学力テストの点数に応じて公的資金の調達の配分を左右するテスト科目の勉強時間を奪うことになります。
Teaching kids about credibility, security, privacy, intellectual property and other bases of their online lives, after all, would take time away from the tested subjects that lead to merits or demerits, funding or reduced funding, depending on exam scores.
ChatGPTの登場で揺れる?記述問題の評価
昨今話題のAIツール「ChatGPT」の登場は、選択問題とは違って、高次元の知識を測っていたはずのエッセーライティングによる試験をなし崩しにし、教育関係者に衝撃を与えています。人間ではなくbotにより優秀な作文ができるとなれば、どうやって知識や能力を測るのでしょうか。
私自身昨夏ごろから、ChatGPTのもとになるエンジンを試して遊んでみたり、AIの入ったライティング補助ツールを使っています。しかし、代わりに宿題をやってもらったら、知識も身につかず、鍛錬も積めない、それでは私にとって実にならない(何のために学費を払って大学に行くの?)となってしまうので、それで高等教育の意味が大きく変わるとは思っていません。どちらかというと、外国人だから英文作成でミスが多い、というのはもはや言い訳にならず、ツールを活用してもっと洗練させなければいけないというプレッシャーがあります。
下記のラジオ番組では、ペンシルバニア大学ウォートン校で教えるEthan Mollick教授が、作文の多い自身の講義でChatGPTの利用を義務付けていることを紹介。このツールが登場する以前から、レポート作成サービス(例えばほかの人が書いたレポートを買って、自分のレポートとして提出するといったチート行為)を利用している人もいたので、今に始まったことではなく、教える側の工夫が必要そうです。

入試も変わるか?
「入試の傾向と対策に精通することが将来の安穏を手にする源泉となる事態にどう立ち向かえばいいのか」そう尋ねるのは、帰国子女の支援等尾を行う日米教育学園JUSTの石川校長。寄稿文では、教育が所得格差を正当化・固定化するツールとなっていることへの危惧に対し、入試制度の変革を訴えており、興味深く読みました。
確かに近年、アメリカではコロナの影響もあり、大学入試に関わる統一試験「SAT」を要件から外す傾向があります。日本でも総合型選抜が増えつつあるとの報道もあります。

書面や面接を組み合わせた「総合型選抜」を設けた大学数は国公私立大652校(全体の83.7%)、同選抜による入学者は8万4908人(13.5%)でいずれも過去最多。総合型では、志願者の適性や意欲などを幅広く評価する狙い。
日本では書面ですが、米国では、成績や課外活動などの学習成果の記録をデジタル化するためにComprehensive Learner Recordsという規格があります。このComprehensive Learner Recordsをアドミッションオフィス(入学事務)でも活用していこうという動きがあります。日本語では、「学習歴」という言葉が話題になりつつありますが、大枠では同じ流れです。

nikkei.com/article/DGXZQO… リスキリング社会で注目「学習歴」 何を学んできだか、ブロックチェーン技術で記録(令和なコトバ) 誰もが知る流行語なき時代の新語を採掘し、世の中を知る「令和なコトバ」。学歴社会の弊害がいわれて久しいですが、どの学校を出 www.nikkei.com
測ろうとしていることが適切に測れ、その結果を適切に解釈できるか。どんなテストも「信頼でき」て「妥当」であることが求められます。近年では、試験に一存し人生を左右するやり方ではなく、学習を積み重ね、フィードバックを受けて向上していくことを重視するようになってきています。この流れに併せて、外界から閉ざされ何も参照してはならないテストだけでなく、持ち込みOKのテストや、さらには「ポートフォリオ」を活用するケースも増えています。CLRのようなデジタル化の様式は、学習者主体で学びの成果を貯め、共有することで、新たな学習機会を切り開く一助となることが期待されます。
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