#2. ジョブ型雇用への転換、スキルに基づく雇用=Skill Based Hiringの潮流ほか
ジョブ型雇用への転換
年始の日経新聞(1/5)では、KDDIや富士通などを例に日本国内でのジョブ型雇用の導入状況について触れています。これまで、日本の採用慣行は終身雇用を前提としたいわゆる「就社」つまりメンバーシップ型が中心でしたが、近年ではあらかじめ仕事を明確に定義し専門人材を採用するジョブ型雇用の導入が一部に進みつつあります。

ジョブ型、試行錯誤:日経 nikkei.com/article/DGKKZO… ジョブ型、試行錯誤 デジタルトランスフォーメーション(DX)など経済環境の変化が加速するなか、あらかじめ仕事の内容を定めた「ジョブ型雇用」が www.nikkei.com
実際にジョブディスクリプションと呼ばれる仕事内容の記述には、どんな仕事をするのかだけでなく、求められる能力を含みます。能力の記述と一口に言っても、「コミュニケーション能力のある人」とか「データ利活用ができる人」といった日本語独特のあいまいな表現ではなく、客観的にスキルとして記述しなければなりません。また個社やセクター毎にスキル記述の語感に幅があると採用時に不便そうです。やみくもにスキルを記述するのではなく、こうした際には、参照先としてスキルフレームワークが活用されます。
デジタルスキルの定義、日本では?
2022年12月21日に、個人の学習や企業の人材確保・育成の指針として、以下の2種類からなる新たな「デジタルスキル標準(DSS)」が情報処理推進機構からリリースされました。
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DXリテラシー標準(DSS-L):全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルの標準
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DX推進スキル標準(DSS-P):DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準
少し遡りますが、日本では昨年(2022年3月末)に公開されたデジタル庁の政府相互運用性フレームワーク(GIF)の中で、近年注目を集める「データ・サイエンティスト」や「AI人材」と呼ばれる人材の不足をふまえ、データ人材を定義、そのスキルセットや評価方法を「データ人材管理実践ガイドブック」に示しています。同ガイドブックでは、データ人材について定義する際、次のようなポイントがあることに触れています。
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フレームワークを参照することで人材要件を定義すること
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IT人材のグローバルスタンダードであるSFIAを参照すること
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明確になった人材要件に対応する教育講座を推進すること
デジタルガバメント推進の人材確保にも
人材確保にジョブディスクリプションを使うのは企業だけではありません。近年欧米では政府が、デジタルガバメントを推進するために、民間からも高度なITの素養を持った人材を確保しようと、官民で相互に参照できるフレームワークの取り入れるようになっています。
イギリスでは、デジタルに精通した行政官を採用しようと、ジョブディスクリプションを記述するにあたって、求められる人材の役割とスキルレベルを定義したDigital, Data and Technology Profession Capability Frameworkを整備導入しました。

著者調べ。CC-BY-NC-SA
同様にオーストラリアでも、教育機会の提供と連携していることが見て取れるかと思います。

著者調べ。CC-BY-NC-SA
スキルの可視化で進む、スキルベースの採用・昇進
身に着けた知識やスキル等が行動として表れたものを広義の「スキル」として捉え、スキルに基づいた採用を進める潮流がアメリカで進みつつあります。米国ウォールマートやセールスフォースなどをはじめ、Skill-based Hiring(スキルを基にした採用) は、近年になってよく耳にする機会が増えたキーワードです。
「スキルベースの雇用の台頭とそれが教育にとって何を意味するか(フォーブス、2021年6月)」「スキルベースの採用が増加中(ハーバードビジネスレビュー、2022年11月)など、とにかく見出しに「スキルベース」とつく記事がここ数年で激増しています。
米国はもともとジョブ型雇用ですが、何が新しい潮流かというと、スキルを基にした採用では、これまで応募要件に記載していた4年制大学卒業の「学士号」に代わって、「スキル」を評価して採用するのだと対比して語られ、さらにスキル情報を機械可読なデータとして集め、採用や人材育成の効率化を目論んでいる点です。スキルのオープンデータ化とAIによるマッチングを実現する技術基盤に取り組む米国オープンスキルネットワークでは、
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Rich Skills Descriptor (RSD)と呼ばれるスキル情報の記述様式
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RSDを活用するためのオープンスキル管理ツール(OSMT:読み「オズミット」)
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スキルライブラリ
を提供しています。
日本でもエンジニア採用などにおいて、ジョブを遂行するスキルを明確にし、マッチングをはかる採用や学習支援が昨今、とりあげられています。

ハイヤールーの葛岡宏祐代表「スキル重視の人材採用」
nikkei.com/article/DGXZQO… ハイヤールーの葛岡宏祐代表「スキル重視の人材採用」 「エンジニアが学歴や職歴でなく、スキルで採用される仕組みを実現したい」。プログラミング試験の作成ソフトを手掛けるハイヤー www.nikkei.com
選考プロセスはもちろん、リスキリングにおいてもスキルを可視化することで、今自分には何ができて、次に何を学ぶと成長でき、キャリアをステップアップできるかが明らかになります。

s.nikkei.com/3IfBZ4Q リスキリング、放任型から脱却 無料で教え合いの学校も リスキリング(学び直し)熱の高まりは、企業や働き手の意識を変えている。国内でも単に多くの講座をそろえて選ばせる「放任型」 s.nikkei.com
上記日経の記事では、職務履歴書を解析し、保有スキルをAIが査定し、次に学ぶべき内容をAIが推薦してくれる米国スカイハイブの仕組みを紹介していますが、こうしたシステムの背景にあるのがインストラクショナルデザインの考え方です。Smith&Reganのインストラクションデザインモデルでは、教育・研修等を設計する際に次のような事柄を洗い出します。
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目的地はどこか(分析)
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どのようにしてたどり着くのか(戦略)
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到着したことがどうすればわかるか(評価)

山頂のゴールを目指すウサギと亀。
例えば、「レース出場者は、穏やかな春の日に、指定の中級者向けルートのスタート地点から、3時間以内に歩いて山頂に到着することができる」というように、インストラクショナル・デザインでは、目的地や評価にあたって、主体・ふるまい・状況・程度の4つの要素を含め、学習者ができるようになることを定義します💡。スキルベースの採用では、インストラクショナル・デザインで整理されたスキルをさらに機械可読なデータにして、解析、マッチングにより人材育成を合理化しようとの意図があります。研修や講座においてインストラクショナルデザインの理論を用いた学習目標や評価が少ない日本の現状からすると、少し気の遠くなる話です。
最後まで読んでいただきありがとうございました!次回は、身に着けた知識・スキルを問うテストと学習歴について取り上げる予定です。
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