#1.デンマークのリスキリング事情、補正予算、教育ブロックチェーンなど(2022年12月上旬)
こんにちは!このニュースレターは、テクノロジーが変えゆく学びのあり方について、私自身が関心を持ったことについて、学びながら&考えながら発信したいと思います。第一弾は、デンマークのリスキリング事情、補正予算、教育ブロックチェーンについてピックアップしました。
👇👇👇
社会人:学び直しには時間もお金も必要か
日本でも進むリスキリング?
新たな仕事スキルを学ぶ「リスキリング」に取り組むミドルは31%
仕事で必要性を感じ、自発的に取り組み始めた方が多数。
取り組む分野は「語学」「ITリテラシー」「データサイエンス」が上位。
人材サービス大手のエン・ジャパンによる35歳以上を対象にした調査によると、約3割がリスキリングに取り組んでいるとのこと。他方、約半数が「できていない」との現状も。取り組まない理由には「時間が無い、忙しい」との回答もあり、課題が伺えます。
デンマークの手厚いリスキリング事情
対照的なのが、現在日経新聞で特集されている北欧の学び直し事情です。上述の日本国内の調査では、ミドル層のリスキリングにおいては、時間の確保が課題として挙げられていますが、ところ変わって北欧、デンマークでは、手厚い保障や教育訓練プログラムのなかで、安心して学べる環境が整備されているようです。
デンマークでは4時に仕事を終わらせるのは普通。勉強だと言えばもっと早く退社することもできる
デンマークでは、
-
成人向けの職業訓練が充実している
-
最近、教育・訓練を受けた人の割合が高い
-
労資の双方がリスキリングに意欲的
との特徴があり、さらにGDP比で職業訓練への支出を見ると、
0.01%の日本に対し、デンマークは0.36%と大きな差がある
😲😲😲仕事の終わる時間の早さにもビックリですが、職業訓練への支出が日本と比べて圧倒的にボリュームがあるのに驚きです。
大学:(補正予算)デジタル設備拡充も指導者不足が課題
データサイエンス、人工知能など理系学部拡充へ
日経新聞が実施した学長アンケートによる有力大学の6割がデジタル設備投資を増強したとのこと。ところが、教員の確保が課題で、全体の7割強が「足りていない」ないしは「少々足りていない」と指導者不足の様です。同記事では、政府が設立した3000億円規模の基金※によって、大学がデータサイエンス、人工知能、脱炭素といった分野の強化を検討していることも併せて触れており、テクノロジーのトレンドを踏まえた理工系学部の拡充が伺えます。
※こちらは第二次補正予算で新たに文科省が新設する「大学・高専成長分野転換支援基金」で、約3002億円。理系への学部再編支援の手立てとなるものです。
100年時代の学びは、スタッカブル(累積型)
おまけですが、これからの教育の在り方を探る日経新聞の編集記事(2022/12/06)のなかで、北海道国立大学機構が構想する「完全単位累積型教育プログラム」についてわずかに言及がされており、非常に興味深いので少し紹介します。記事では詳細が割愛されているのですが、同機構の資料を詳しく見てみると、
「完全単位累積型教育プログラム」とは
「人生100年時代を迎える社会において、社会と教育の場を行き来しながらの学び直しや学び加えなど多様な教育ニーズに応え、学生・社会人の学びの環境、北海道産業・経済の活性化に大きく寄与する」という目的の下、「自らの将来設計、経済・就労状況等に応じて、修学が可能な時期に、大学間の移動も含めて、必要とする科目を自由に履修する主専攻プログラム」だそうで、「三大学の科目選択・履修期間の自由度・柔軟性を大幅に高め、学生は必要とする知識・技術を習得」するような履修イメージが挙げられています。
そういえば、同じくらい雪が降りそうなカナダのオンタリオ州でも、複数の大学等が連携したeCampus Ontarioという取り組みの中で、リカレント教育のための短期スキル育成講座(いわゆるマイクロクレデンシャルプログラムと呼ばれる)をeラーニングで提供し、州の単位互換制度のなかで積み上げられるような認定の仕組みを用意していることを想起しました。学びの成果を積み上げるという考え方は、後で紹介する学修履歴のデジタルウォレットで具現化されるなど、近年の世界的な潮流です。
初中等:(補正予算)高校「情報」に産学連携で挑む
高校の情報担当教員を官民で支援
高校の必修教科「情報」について、担当教員の16%が正規免許を持っていないことを踏まえ、産学官の協議会により、担当教員のスキル向上を図ろうと、文科省が第二次補正予算の関連予算として1億4千万の計上をしているとのことです。

連携の方策としては、
-
民間による教員研修
-
エンジニアによる授業のサポート.
-
特別免許の授与
といった仕組みが検討されているようです。
《注目》学修履歴のデジタル化
ここ数週間で、学修した成果をデジタルに記録し保管する技術的な取り組みが活発に取り沙汰されているので紹介したいと思います。まずは、北米。
北米:LEGOのように学習歴を積み上げる、IoEのデジタルウォレット

ラーニングエコノミー財団によるLearnCardのウェブサイトのスクリーンショット
分散型のインターネットのプロトコルを活用して、教育を新たにつなげることを目指すアメリカのラーニングエコノミー財団の取り組み「Internet of Education (IoE)」が、新たに学習履歴をデジタルウォレットに保管する仕組み"LearnCard"を公開しました。ウォレット=財布の意味です。ざっくり言うと、保有スキルのおサイフケータイと言ったところでしょうか。
この取り組みのトップを務めるのが、LEGO財団の元CEOだったJohn Goodwinさんです。バラバラの小さな粒になっている学びの成果を積み上げて繋ぐようデータの相互運用性の向上し、学習者が学びの道筋を見定めたり、雇用する側が保有スキルを理解できるようにすることで、より公平な社会を目指しています。Forbes(英語)でのインタビューでは、レゴのように学習成果の粒をつなぎ合わせ学習歴を貯めておくデジタルウォレットを設計していくにあたってののフィロソフィーが詳細に語られています。
インタビューで同氏は、学習履歴を保管するデジタルウォレットの取り組みにおいて最も重要なのは"self sovereignty"=(自己主権型であること)だとしています。これは、学習者自身が特定のプラットフォームに頼らず、データを所有しコントロールできる原則を指しています。
もともと、2020年頃からLEGOが取り組んでいた子供たち向けのゲームを通じてスキルを習得していくモバイルアプリ「SuperSkills!」(技術的には分散型IDとVerifiable Credentialsを応用)を提供してきたところ、新たに公開したLearnCardでは、基礎教育以降も様々な場面での学習を生涯にわたって保管し、就職・転職活動さらには採用後の人材育成に活用するようスコープを広げています。
ラーニングエコノミー財団は世界銀行と一緒に、Web3 Education Allianceを立ち上げ、ブロックチェーンの教育への応用に取り組んできており、中央集権的なシステムではなく分散型の学びのエコシステム構築を目指しています。その背景には、現状の教育データの脆弱性への危機感があるからのようです。通常、学習者のデータは一か所に保管されており、万一、人間のミスないしはシステムエラー等なんらかの理由でセキュリティ上の問題が発生すると、情報漏洩のリスクになると考えられます。企業の人事管理システムや、学校によって異なる特定ベンダーの学習管理システム内にのみ教育データが集積されていると、学習者が自身の業務経験やスキル、学修成果をもとに、次の学びやシゴトへステップアップしようとしたときに、煩雑になってしまいます。あちこち資格証明証や成績証明証を発行してもらうよう申請したり、固有のシステムを開いて取得した受講証等を確認したり、場合によっては公開リンクを生成するなどプライバシー面で妥協しながら自身の経歴を証明しなければいけない…など時間も手間もかかります。そこで、こうした機関をまたがって多様な学びの成果を一括してデジタルウォレットで保管し学習者が自身の意志でシェアできる仕組みをラーニングエコノミー財団は目指しているようです。
※自己保有型の学修歴について日本語で解説したものとして、公益財団法人 未来工学研究所による「諸外国における学修歴証明(卒業証明や成績証明等)のデジタル化に向けた導入事例・導入方法に関する調査研究」があります 。
日本:オープンバッジと人的資本経営
日本でブロックチェーン技術を取り入れた学修成果証明としては、オープンバッジの発行による人材育成に取り組む、一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク がありますが、12月9日(金)に3周年を記念しに「人的資本経営 特別オンラインセミナー」を開催しました。人的資本経営におけるオープンバッジへの期待を一橋大学名誉教授で人的資本経営コンソーシアム会長 伊藤 邦雄教授が講演するなど、人材育成とオープンバッジの活用との関連で注目される話題でした。
日本:データを個人で分散管理する取り組み、続々と。
デジタル庁の「Trusted Web の実現に向けたユースケース実証事業」(株式会社NTTデータ経営研究所)では、参加企業の一部が人材育成や学修歴に関するデータを分散管理しようとする取り組みがあるようです。
おしまい
以上、ざっくりですが、12月上旬に気になったトピックスを紹介しました。
Happy Holidays♡🎄
本ニュースレターのライセンスはCC-BY-NC-SA4.0です。非営利目的の利用なら、出典明記で転送・シェアOKです。
すでに登録済みの方は こちら